経営というものは、時として「正論の押し付け合い」になりがちです。「これをやるべきだ」「なぜやらないんだ」。 しかし、その義務感の押し付けこそが、組織や顧客の心を冷え切らせている原因かもしれません。
この記事を読み終えたとき、あなたは「顧客や社員が抱える『義務の痛み』を、自ら進んで動きたくなる『ワクワク』に変える武器」を手に入れているはずです。
記事の要約
花王がイオンリテールと共同企画した日焼け止め「ビオレ キッズスタンプUV」が、発売1カ月で21万本を出荷し、計画比2倍のヒットを記録している。背景には猛暑による子供の紫外線対策への関心向上があるが、「子供がべたつきや匂いを嫌がり、日焼け止めを塗りたがらない」という親の大きなストレス(4歳児の使用率は57%に下落)があった。 花王は、過去のヒット商品「泡スタンプハンドソープ」の知見を活かし、液が「猫の肉球型」で出るノズルと、子供でも出しやすい絶妙な硬さの楕円形ボトルを開発。「塗る義務」を「スタンプする楽しさ」に変えたことで、親子だけでなくSNSを通じて猫好きの大人層まで巻き込むヒットとなった。

出典: 日本経済新聞(2026年6月3日 朝刊)「子供の『塗りたくない』 猫の肉球で解消 花王の日焼け止め、親のストレス軽減」
【この記事から得る3つの気づき】
- 「正論」ではなく「感情」を動かす: 日焼けの危険性を説明するより、「肉球をスタンプしたい」という楽しさが行動を促す。
- 過去の資産(ストック)の転用: ハンドソープでの「肉球の成功体験」という過去の資産を、別ジャンルの日焼け止めに見事に横展開している。
- ターゲットを絞り込むと外へ広がる: 「子供向け」に徹底的にこだわり抜いたからこそ、その圧倒的な可愛さが大人やSNSに飛び火した。
ニュースの裏側にある「顧客の痛み」
私はかつて、企業の苦情対応部門で泥臭く現場の声を拾い続けてきました。だからこそ、このニュースの本質が単なる「アイデア商品が売れた」という話ではないことがよく分かります。
ここで深読みすべきは、「正しいけれど、面倒で、苦痛を伴うこと」に対する人間の普遍的な拒絶反応です。
親にとっては「子供の肌を守りたい」という大義名分があります。しかし、子供にとっては「べたつく、臭う、時間がかかる」という不快感でしかありません。ここで発生しているのは、「正しいこと(義務)」と「やりたくないこと(本能)」の激しい衝突です。
中小企業の経営でも、これと全く同じことが起きていませんか? 「もっと日報を細かく書いてくれ」「現場の整理整頓を徹底してくれ」「この素晴らしい新サービスを導入してください」。これらはすべて正論です。しかし、社員や顧客からすれば「面倒で、自分の時間を奪うもの」に映っているかもしれない。
花王が素晴らしいのは、日焼け止めの成分を改良して「さらにベタつかなくした」という機能的アプローチではなく、「塗る行為そのものをエンタメ化した」という情緒的アプローチを取った点です。
顧客や社員が動かないのは、彼らの意識が低いからではありません。「動くプロセス」が圧倒的につまらないからです。
実践:明日から現場ですぐにできること
大企業のような予算や開発チームがなくても、明日から社長のあなたが一言、現場にかけるだけで変えられる「泥臭い一歩」があります。
自社の製品、サービス、あるいは社内業務のなかで、「顧客や社員が嫌がっているステップ(ボトルネック)」を1つだけ見つけてください。性能や効率を上げる前に、それを「楽しさ」や「遊び心」で包み込めないか考えてみるのです。
思考を整理するために、私が現場でよく使うフレームワークを共有します。
【小島流:ストレスをワクワクに変える「一工夫」ワーク】
「不」の洗い出し: 自社のサービスや業務で、相手(顧客・社員)が最も「面倒くさい」「やりたくない」と感じている瞬間はどこか?
「過去の勝ちパターン」の探索: 過去に「これ、評判が良かったな」という自社の小さな成功事例や、別の業界で流行っている「楽しい仕組み」はないか?
「遊び心」のドッキング: その面倒な瞬間に、過去の勝ちパターンや遊び心をどう掛け合わせられるか?
例えば、社内の「5S活動(整理・整頓)」が進まないなら、「綺麗にしろ」と怒るのをやめましょう。床に「足跡のステッカー」を貼って、ゲーム感覚でそこに物を置きたくなるようにする。これだけで、会議を重ねるよりも遥かに現場は動き出します。
おまけ:味変アイデア
もし私が、このニュースの「義務をエンタメ化する」という本質を使って、新しいアイデアを練るなら……
「苦手な物でも食べたくなる器」
子供が嫌いな野菜をどうしても食べない時、お母さんのストレスは頂点に達しますよね。特に保育園に行く前の、1分1秒を争う忙しい朝ならなおさらです。 そこで、子供が大好きなキャラクターが器の底に描いてある専用の器を5個1セットで用意します。毎朝、お母さんが「きょうは誰が褒めてくれるかな?」と食卓に出す。子供が必死に完食してスープやおかずを飲み干すと、底から現れたキャラクターが「すごいね!全部食べれたね」と満面の笑みで褒めてくれる仕組みです。
これ、「完食しなさい」と叱る必要が一切なくなります。「キャラクターに会いたい」という子供の自発的なワクワクが、朝の戦場のようなリビングを、一瞬で笑顔の空間に変えてしまうストリートプランです。
社長参謀からのエール
最後に、社長に1つだけ問いかけをさせてください。
「あなたが今、社員やお客様に押し付けている『正論』のなかに、ほんの少しの『遊び心』を混ぜるスキマはありませんか?」
経営者は孤独です。どうしても成果を急ぐあまり、四角四面の指示を出してしまいがちです。でも、人を動かすのはいつだって、理屈ではなく「やってみたい」という小さな感情の揺らぎです。
机の上の数字だけでなく、現場の「感情の温度」に目を向けていきましょう。 大丈夫、あなたならきっと、その痛みをワクワクに変えられます。






















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