なぜ、あるボードゲームカフェは客の8割が新規客なのか? 答えは「マニア」を捨て「ライト層」に振り切った戦略にありました。業界の常識だった「時間課金」「品揃え」をあえて破壊。経営者自身が「にわか」になることの重要性とは? あなたの会社の「参入障壁」を見直す、新規事業開発のヒントをお届けします。
社長、あなたの会社の「新規顧客の比率」は、いま何割ですか?
もし、その数字が【7割、8割】に達しているとしたら、それは驚異的な成功です。多くの場合、ビジネスは「お得意様」や「常連客」に支えられています。しかし、事業を爆発的にスケールさせるのは、いつだって「新規客」の力です。
今日ご紹介したいのは、あえて「マニア」を狙わないことで、客の実に7〜8割が新規客という店を作り上げ、ボードゲーム市場に革命を起こした「JELLY JELLY CAFE」の事例です。
これはボードゲームの話ではありません。
あなたの業界にも必ず存在する、巨大な未開拓市場(ライト層)をどう攻略するか、という「新規事業開発」のヒントです。
なぜ「ボードゲームカフェ」は入りづらかったのか?
ご存知の通り、ボードゲーム市場はコロナ禍の巣ごもり需要を機に拡大し、2023年度には75億円規模に達しています。
しかし、この市場には長らく【心理的な壁】が存在していました。
- 「ルールが難しそう」
- 「マニアックな常連ばかりで、初心者は入りづらい」
- 「そもそも、何時間遊べばいいのか分からない」
かつての客層は、40〜50代の「昔からの愛好家(マニア)」が中心。
しかし、「JELLY JELLY CAFE」は、この構図を「20〜30代のライト層(男女比は半々)」へと完全に塗り替えました。
彼らは、どのようにしてこの分厚い「初心者の壁」を破壊したのでしょうか?
その戦略は、徹底した「引き算」と「逆張り」にありました。
成功の鍵は、初心者のための「3つの常識破壊」
彼らがやったことは、業界の「当たり前」を疑い、ライト層の「不安」を徹底的に取り除くことでした。
1. 料金体系の破壊:「時間課金」から「パック料金」へ
多くのボードゲームカフェや漫画喫茶が採用する「1時間いくら」という従量課金制。これは一見合理的ですが、初心者にとっては【プレッシャー】になります。
「せっかくルールを覚えて盛り上がってきたのに、もう時間だ」
「あと30分でいくら追加になるんだろう…」
これでは、楽しさに没頭できません。
そこで同社は、昼の部・夜の部の【パック料金制】を導入。
「時間を気にせず没頭できる」という安心感を提供したのです。
「時間を忘れて楽しめた」という体験が、次の来店動機に直結します。これは単なる料金設定ではなく、リピーター獲得戦略そのものです。
2. オペレーションの破壊:「フード提供」をやめ「持ち込み自由」に
「カフェ」と名が付くのに、彼らはあえて本格的なフード提供を【やめました】。ワンドリンクは料金に含みますが、フードはなんと【持ち込み自由】。
これにより、仕入れや調理のコスト、人員を徹底的に削減。
利用者は「好きなものを持ち込んで安く遊べる」というメリットを享受し、店側は【原価率を劇的に抑え】、客単価2000〜3000円でも高い利益率を確保しています。
「カフェだから食事を出すべき」という常識を捨て、「ボードゲームに没頭する場」という本質的な価値にリソースを集中させたのです。
3. 品揃えの破壊:「希少性」から「定番の安心感」へ
これが最も重要な戦略です。
マニア向けの店は「世界に数個しかない希少なゲーム」をウリにします。しかし、ライト層にとって、見たこともないゲームが並ぶ棚は【恐怖】でしかありません。
同社は逆張りしました。あえて【流通している定番】を中心に揃えたのです。
「あ、これテレビで見たことある!」
この「知っている」という安心感こそが、初心者の第一歩を後押しします。希少性ではなく「とっつきやすさ」を優先し、「遊んで楽しかったら、そのまま買って帰れる」という【体験と物販の連動】まで設計しているのです。
すべては「あえてマニアにならない」経営者の哲学
なぜ、ここまで徹底して「初心者目線」を貫けるのか。
それは、運営会社の白坂代表自身が、自らを【〝ライトファン(にわか)〟】だと公言しているからです。
「私はどのジャンルでもずっと〝ライトファン〟だ」
「あえてマニアックに突き詰めない」
専門性を突き詰めれば突き詰めるほど、経営者は「初心者の気持ち」が分からなくなります。しかし彼は、ターゲットであるライト層と【同じ目線】を持ち続けています。
彼らが将棋カフェや大喜利カフェなど、他業態でも成功している理由は、「やりたいと思った人が、気後れせずに入れる入り口をつくる」という一点に集約されています。
【新規事業へのヒント】あなたの会社の「壁」はなんですか?
さて、社長。この事例をどう自社のビジネスに活かしますか?
新規事業のタネは、既存事業の「外」にあるとは限りません。既存事業の「入り口」にこそ、金脈が眠っています。
💡 ヒント1:あなたの業界の「当たり前」を疑う
あなたの業界で「常識」とされていることは、新規客にとって「参入障壁(壁)」になっていませんか?
- 専門用語だらけのウェブサイト
- 常連客だけが得をする、複雑すぎる料金プラン
- マニアや玄人しか喜ばない、オーバースペックな機能
それらを【破壊】し、思い切りシンプルにすることで、これまでアプローチできなかった巨大なライト層市場の扉が開くかもしれません。
💡 ヒント2:あえて「にわか(ライトファン)」の目で自社を見直す
社長自身が、一度すべてを忘れ、自社の商品やサービスを「全くの初めて」として体験してみてください。
- 「何だか分かりにくいな…」
- 「この時間はプレッシャーだな…」
- 「これを買うのは不安だな…」
その【違和感】や【不安】こそが、次の新規事業のタネです。
まとめ:巨大な市場は「マニアの先」ではなく「初心者の手前」にある
多くの企業が、既存客のニーズに応えようと、より深く、よりマニアックな方向にサービスを掘り下げがちです。
しかし、「JELLY JELLY CAFE」の成功は、真逆の視点を示唆しています。
最も巨大な市場は、マニアを深掘りした先にあるのではなく、まだ入ってきていない「初心者の手前」に広がっている。
その人たちの「不安」を取り除き、「入り口」を広げること。
それこそが、既存の業界地図を塗り替える、最もインパクトのある新規事業開発なのかもしれません。
あなたのビジネスが今、壊すべき「最初の壁」は、一体何でしょうか?
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