名古屋の自宅から少し離れた実家の畑で、私の父は毎年「長芋」を作っています。 私が物心つく前からずっと作っていて、実家のアルバムには泥まみれになって長芋を掘る幼い私の写真がたくさん残っています。
この長芋掘り、大人になってからも意外なほど活躍しました。 学生時代の友達と遊び半分で掘ったり、少年野球の仲間や会社の同僚を連れて行ったり。結婚してからは、子どもとその友達の家族と一緒に掘ったりと、思い返せば本当にいろんな人を実家の畑に連れて行きました。
なぜ、みんな喜んで来てくれたのか? 長芋が美味しいから? もちろんそれもありますが、一番の理由は「自分の背丈ほどもある深い穴を、泥まみれになって掘る」という非日常の体験そのものが、最高に面白かったからです。 そんな楽しい記憶をたくさん作ってくれた父には、本当に感謝しかありません。
さて、なぜ私がこんな個人的な思い出話から始めたのか。 それは、今日ご紹介するニュースに「自社には新しい強みなんて何もない」と嘆く経営者の皆さんが、明日から新規事業の種を見つけるための最強のヒントが隠されているからです。
この記事を最後まで読んでいただければ、新規事業は「ゼロからすごい発明をすること」ではなく、「今あるものの光の当て方を変えること」だという事実に気づき、明日から現場を見る目が確実に変わります。
ニュースの深読みと「問い」
真夜中の畑がテーマパークに変わる時

今回取り上げるのは、京都で農業関連事業を手掛ける法人が始めた「ナイトファーム(夜の農業体験)」のニュースです。 暗闇の畑を1000個の電球でライトアップし、冬の寒空の下、夜にネギや白菜を収穫する。そしてテントで鍋を食べる。これが「SNS映えする」と話題を呼び、若いカップルから家族連れまで大盛況だというのです。
私がこのニュースで最も注目したのは、この事業が生まれた「きっかけ」です。
もともとこの農地を管理していた方は、野菜の収量が増えず、稼げずに限界を感じていました。そこで、農家の苦しい現実を知ってもらおうと、夜の農作業をネット配信したのです。 すると、視聴者から「夜の作業でヘッドライトに照らされた野菜がきれいだ」という予想外の反応が返ってきました。
ここに、ビジネスの本質が詰まっています。 苦情対応部署で長年お客様の「なぜ?」に向き合ってきた私からすれば、お客様の何気ない一言や、現場の「痛み・苦労」の中にこそ、最大の経営資源が眠っていると断言できます。
農家にとって「夜の収穫作業」は、暗くて、寒くて、しんどいだけの「痛み」や「弱み」だったはずです。しかし、都会でデジタルにまみれて生きる消費者からすれば、それは「見たこともない美しい非日常(エンタメ)」だった。
社会構造が便利になればなるほど、人は泥臭いリアルな体験に飢えていきます。 「新規事業」と聞くと、最新のITツールやAIを導入しなければと身構える社長が多いですが、それは違います。私たちがやっている「ウィッテム」の理念と同じ。「あるものを活かして、ないものを創る」のです。
実践:明日からできる「泥臭い」第一歩
会議室を出て、自社の「当たり前」をずらしてみる
「じゃあ、うちの会社は何をライトアップすればいいんだ?」 そう思われた社長。明日から予算ゼロでできる具体的なアクションをお伝えします。
それは、社内で一番の「不満」や「苦労」が集まる場所にあえて光を当ててみることです。 現場の社員が「毎日こんな面倒な作業やってられませんよ」と愚痴をこぼす作業。あるいはお客様から「ここが使いにくいんだけど」と寄せられる小さな苦情。そこにこそ、競合他社が見落としている「価値の源泉」があります。
コンサルタントとして多くの企業に入り込んで伴走してきた私から、思考のヒントとなるフレームワークを一つ共有します。
【小島流・既存リソースの「ずらし」発想法】
❶時間のずらし: 昼の当たり前を「夜」にしてみる。(例:ナイトファーム、夜のパン屋)
❷対象のずらし: プロの当たり前を「素人」にやらせてみる。(例:泥まみれの長芋掘り体験)
❸痛みの公開: 自社の「弱み」や「面倒くさい裏側」をあえて見せる。(例:苦労のネット配信)
明日、現場の若手社員にこう聞いてみてください。 「うちの会社で、一番泥臭くて面倒くさい作業って何だと思う?」 その答えの中に、あなたの会社の「ナイトファーム」の種が眠っています。
おまけ:小島流「味変アイデア」
ちなみに…「痛み」を極限まで高めてみる
今回のナイトファームの事例、素晴らしい着眼点ですが、私ならもう一つスパイスを加えます。
冬の夜の畑は「寒い」ですよね。テントで鍋を食べるのも良いですが、いっそのこと「暗闇サバイバル収穫祭」にしてはどうでしょう。 1000個の電球をあえて消し、参加者に渡すのは小さなペンライト1本だけ。真っ暗闇の中で「指定された野菜を見つけ出さないと、今日の鍋の具材がない!」というゲームにするのです。 さらに、私が経験した「長芋掘り」のように、全身泥まみれにならないと獲れない巨大野菜を仕込んでおく。「便利さ」から一番遠い「不便さの極致」を提供することで、他には絶対に真似できない強烈な体験価値(ブランド)が創れるはずです。
参謀からのエール
本日のまとめです。
- イノベーションの種は、現場の「苦労」や「痛み」の中に隠れている。
- ゼロから創るのではなく、自社の「当たり前」の時間や対象をずらしてみる。
- お客様の予期せぬ一言(声)を見逃さない。
新規事業は、決して一部の天才だけのものではありません。 いま目の前にある事業を必死に守り抜いてきたあなたにしか見えない「泥臭い現場」にこそ、次の柱となるヒントがあります。
もし、「うちの会社の痛みや面倒なことってなんだろう?」と行き詰まったら、いつでも私にお声がけください。隣でコーヒーでも飲みながら、一緒に泥まみれになって汗をかきましょう。あなたの会社の「痛み」、ぜひ私に教えてください。
【付録】経営者が朝礼で社員に語る「30秒メッセージ」
(以下のメッセージを、明日の朝礼でぜひご自身の言葉として社員に語りかけてみてください)
「おはようございます。 最近、京都の農家さんが始めた『ナイトファーム』という取り組みを知りました。暗闇の畑を1000個の電球でライトアップし、ネギや白菜を収穫する。そしてテントで鍋を食べる。農家さんにとって暗くて寒いだけの辛い夜の農作業を、あえてライトアップしてお客さんに見せたら、『美しい!』と大ヒットしたそうです。 これ、うちの会社にも言えることだと思うんです。皆さんが毎日『面倒くさいな』『泥臭いな』と思いながらやっている当たり前の業務の中に、実はお客さんから見たら『すごい!』と感動される宝物が隠れているかもしれません。 今日はぜひ、自分の仕事の『面倒な部分』を、少しだけ違う角度から眺めてみてください。そこから新しいアイデアが生まれたら、ぜひ私に聞かせてください。楽しみにしています!」

























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