▼深夜の創造しい会(ラジオ)
親父と生ビールと、変わらない場所
私は居酒屋が大好きです。 洒落たバーや個室のダイニングも悪くありませんが、赤提灯が揺れる、少し賑やかすぎるくらいの店が一番落ち着きます。
思い出すのは、私が25年前に起業したばかりの頃のこと。当時まだ現役だった父と二人、よく近所の居酒屋へ繰り出しました。 刺身をつつき、熱々の焼き魚をほぐし、ジョッキを傾ける。仕事の話、将来の話、時には愚痴。何十年一緒にいても話が尽きないのは、あの雑多で温かい空間があったからこそでしょう。
時は流れ、今は成人した息子たちを連れ、三世代で同じような店でグラスを交わしています。 不思議なものです。父と私が愛した「昭和の空気」を、令和を生きる息子たちもまた「これ、いいよね」と言って楽しんでいる。
なぜ、時代が変わっても、人はその場所に集まるのか?
今日取り上げるニュースは、まさにこの「変わらない価値」を武器に、あえて流行に背を向けることで急成長しようとしている企業の物語です。 「新規事業=新しいことをしなきゃ」と焦っている経営者の方にこそ、コーヒーを片手に読んでいただきたい内容です。

「狭い・古い」は弱点ではなく、最強の武器だった
流行の「レモンサワー」を拒絶した理由
日経MJの記事(2026/1/16)によると、レモンサワー発祥の店として知られる「もつ焼きばん」が、フランチャイズ(FC)展開を加速させています。しかし、その戦略は現代のセオリーとは真逆を行くものでした。
- あえて「狭い・古い」物件を選ぶ: 20坪以上にはしない。隣と肩がぶつかる距離感が「熱気」を生む。
- メニューは変えない: 創業時から160品の定番を守り抜く。
- 流行に乗らない: 若者に人気の「凍ったレモン入りサワー」の提案も、常連客が嫌がるからと却下。
私がかつて通販会社の苦情対応係をしていた頃、痛感した真理があります。 「お客様は、期待していた『いつもの』が裏切られた時に怒る」のです。
多くの企業が「若者を取り込みたい」「目新しい商品を出さなきゃ」と、既存の強みを捨てて流行に飛びつきます。しかし、「ばん」の経営者は違いました。「若い子は喜ぶかもしれないが、常連が1人、2人と消えてしまう」と断言し、今の顧客(50〜60代)にとっての居心地を死守したのです。
「3・2・2の方程式」に見る、世代を超えた共感
面白いのは、そうやって「おじさんの聖地」を守り抜いた結果、何が起きたか。 「若い世代にとって、何十年も変わっていない場所が、新しい価値観として映っている」という現象です。
記事では、客層の黄金比率を「3(50〜60代)・2(若者)・2(中堅)」としています。 カウンターで背中を丸めて飲むベテラン常連客(おじさん)がいるからこそ、店に「本物の空気」が生まれ、それが若者にとってのエンターテインメントや安心感になる。
これは新規事業を考える上で、強烈なヒントになります。 私たちはつい、「新しい顧客のために、新しい自分になろう」とします。 しかし、本当に必要なのは、「今いる顧客が愛してくれている『自社の骨太な価値』を、今の時代の文脈で再定義すること」なのかもしれません。
AIだ、DXだと騒がれる時代ですが、人の痛みや喜びのツボは、そう簡単には変わりません。「狭くて古い」が「濃密でエモい」に変わるように、御社の「古臭い」と思っている部分にこそ、次の飯の種が埋まっているのです。
明日からできる「泥臭い」第一歩
では、中小企業がこの事例を自社に取り入れるにはどうすればいいか。 多額の投資も、コンサルタントも不要です。明日からできる「泥臭い」アクションを提案します。
まずは「一番の常連」に会いに行く
御社にも、「ばん」における50〜60代のような、長年取引してくれている「常連さん」がいるはずです。 明日、そのお客様のところへ行き(あるいは現場社員にヒアリングし)、こう聞いてみてください。
❌ ダメな質問: 「何か新しい要望はありますか?」「不満な点はありますか?」 (※お客様は自分が何を欲しいか分かっていません。ありきたりな答えしか返ってきません)
⭕️ 小島流・本質を突く質問: 「当社が『これを変えたら』、もう付き合いをやめますか?」 「他社の方が安いのに、なぜウチに頼んでくれるんですか?(本音で教えてください)」
この問いから出てくる答えこそが、御社の「変えてはいけない聖域(コア・バリュー)」です。 「納期が遅れても、〇〇さんが正直に電話くれるからだよ」と言われたら、御社の強みは技術ではなく「誠実なコミュニケーション」です。そこをIT化で効率化して削ぎ落としたら、事業は死にます。
小島流フレームワーク:【資産の棚卸しシート】
新規事業の種を見つけるために、以下の3つを書き出してみてください。
- 【自社の偏愛】: 社員がついこだわってしまう、一見無駄な工程やサービスは何か?(例:頼まれてもいないのに手書きの手紙を入れる)
- 【顧客の痛み】: 常連客が他社で感じている「満たされない痛み」は何か?(例:大手はマニュアル対応で冷たい)
- 【古さの転換】: 「古い・遅い・面倒」と思っている自社の特徴を、「レトロ・丁寧・人間味」と言い換えるとどうなるか?
「あるものを活かして、ないものを創る」。 これが私の会社、ウィッテムの流儀です。 新しい武器を買いに行く前に、足元に転がっている錆びた剣を磨いてみてください。それは実は、名刀かもしれません。
参謀からのエール
流行を追うのは、大手の戦い方です。 私たち中小・中堅企業は、「変えないこと」の凄みで勝負ができる。 泥臭く、現場の常連客の声に耳を傾け、自社の「味」を煮込み続けていきましょう。
もし、「ウチの味って何だっけ?」と迷ったら、いつでも声をかけてください。 一緒に現場で汗をかきながら、その「隠し味」を見つけに行きましょう。 あなたの会社の「痛み」と「強み」、ぜひ教えてください。
【付録】経営者が朝礼で社員に語る「30秒メッセージ」
(※翌朝、社員の顔を見ながら自分の言葉で語ってください)
おはようございます。 今日は一つ、皆に伝えたいことがあります。 世の中はAIだ、最新技術だと変化が激しいけれど、わが社には「絶対に変えてはいけないもの」があると思っています。 それは、長年のお客様が評価してくれている、私たちの「泥臭い対応」や「ひと手間」です。 効率化も大事ですが、お客様がなぜ私たちを選んでくれているのか、その「理由」を削ぎ落とすことだけはしたくない。 だから今日は、皆が担当している一番長いお付き合いのお客様のことを、少し思い出して仕事をしてほしい。 私たちの「変わらない良さ」って何だろう? それを一緒に考えながら、今日も一日、頑張りましょう。
























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